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マナの祝祭:Celebration 〜 after Mana 〜

 そのとき、世界は変わった。

 ファ・ディールの秩序を守る竜たちは、頭をもたげて彼方の聖域に眼をこらした。世界の映し絵たる賢人達−リュオン街道の奥に鎮座するガイアも、キルマ湖のほとりにたたずむトートも、ジャングルの奥地で見守るロシオッティも、彷徨するポキールも、奈落のオールボンも、風にのるセルヴァも、それぞれの場所で、世界の変化を感じ取った。
 魔法学園の教師達も、煌きの都市の珠魅達も、ガトの司祭達も、ゴミ山の壊れた人形達も、奈落のシャドール達でさえ、ファ・ディールのマナが大きく揺れ動くのを感じ取った。そのまま何事もなく忘れ去ってしまった者も多かったが、何人かの者は見たのだ。

 草人達の頭上に赤いふわりとした花が咲き、風に乗って、一斉に宙に舞いあがる光景を。舞いあがった草人達が、聖域の周囲を見えないほど取り囲み、まるで自分の居場所に還ってゆくかのように、吸い寄せられてゆく姿を。そして、ファ・ディールの中心で霞みのように見え隠れしていた巨木のうつろう姿が、まばゆい光を放ち、ついに、実体を持った"マナの木"に姿を変える瞬間を。

「マナの木が復活した…ついに…」
 魔法学園の図書館で古書のページを繰っていたヌヌザックは、2階の窓から、ついに具現化した魔法の源に眼をやると、複雑な思いで呟いた。
「本当に、これで良かったのですか?ポキール殿…」
 彼の脳裏に苦い過去の記憶が甦った。「マナの豊かな世界、それは欲望と争いの種となるかもしれぬ。だがしかし、しかし……なんと美しい…」
 マナの木に向ける魔方陣の中のまなざしは、言葉とは裏腹に、不思議な暖かさと優しい光をたたえていた。

「あら、なんだか空気が変わったみたいじゃない?」
 エメロードは胸一杯に大気を吸い込んで歓声をあげた。煌きの都市に暮らす珠魅達の中でも若い彼女は、その仕草も若々しい生気にあふれている。エメロードの姉達は、彼女の無邪気な仕草に笑いながら、大きく息を吸いこんでみて自分達も眼を輝かせた。
「マナの木が復活したのです。」
 優しい声に、振り返った姉妹達は驚きの声をあげた。「蛍様!?」
 玉座から降りてきた玉石の姫は、珠魅の姉妹を見回してふわりと微笑んだ。
「大気にマナの力が満ちているわ。多くの仲間たちが目覚め、そして生まれることになるでしょう。」
「本当ですか?」姉妹達は鈴を振るようにさざめいた。
「蛍姫」姉妹達の背後からディアナが姿を表した。強靭な指導者であるダイアモンドの珠魅は、以前よりずっと暖かく優しい声で話すようになった。
「レディパールはどうなされたのですか?今日は確かジン曜日のはず…」
蛍石の姫は心配いらない、というようににっこりした。
「パールは出かけました。行き先は、そう、……」

「見て、あれ!」コロナは窓から身を乗り出して叫んだ。すぐにバドも並んで、二人は雀のように身体を突き出したかっこうになった。
「すっげー!もしかして、あれって…」双子は顔を見合わせた。
「"マナの木"!!」
 二人は転がるように家を飛び出して、背伸びしながら世界の中心にそびえたつ巨大な木と、それを取り巻く草人達の渦まく模様に見とれた。
「すごいや!今朝まであんなにはっきり見えてなかったのにー!」
「大きいねー。なんだかすごい力を感じる…」
少しの間言葉もなく見つめていたコロナがぽつりと言った。
「ユィマは、あそこへ行ったんだよね。」
バドもはっとした。
「ちゃんと…帰ってくるよね?」
「帰ってくるよ!!」バドは力強く言った。
「絶対、帰ってくるに決まってる!!だって、"マナの木"が復活したんだもん!!」

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