今日の一作
こちらは、映画やDVD作品などの感想のページです。かなり個人的感想の産物ですが、ご意見あればお気軽にお声かけて下さいませ〜。
*一部ネタバレになりそうな部分は文字色を変えて見にくくしています。(その部分を「選択」して読んで下さいね!)
○「キング・アーサー」2005年2月(視聴日)
前評判通り、なかなか良い映画でした。
劇場で見なかったのが残念なぐらい。これは個人的には、DVDを買う価値がある映画だと思います。
ネット上ではあまり良くない評価もちらほら見受けられるのですが、全く人の評価など当てにならないと思います。
作品の受け止め方は見る人のバックボーンによって違うものですから、作品の価値は自分の目で確かめてみなければわかりませんね!
もしかして、日本では、「アーサー王伝説」そのものがあまり一般的ではないのでしょうか。
その上で、この作品はアーサー王『伝説』とは全くの別の物語だ、という前提を知らないと混乱があるのかも知れません。
つまりこの映画は、『伝説』の元になった実在の人物がいた、という史実を元に作られた物語なのです。
最初、予告やポスターをを見たときには美形じゃない主役だなあ(失礼)・・・と見る意欲をそそられなかった主役のクライブ・オーウェンなのですが、
映画が始まると断然、渋くてかっこいい。顔かたちではなく、人間性が。
これは魔法使いでも神話の人物でもなく、普通の人間アーサー(アルトゥリアス)・カストゥスという人物の、「人格の魅力」の物語なのです。
『聖剣』エクスカリバーでさえ、単なる父の遺品の剣であり、魔法剣でもなんでもないのです。
こういうタイプの主人公を見たのは久しぶりのように思います。
なんとなく宮城谷氏の作品の主人公を思い出しますが、その人格にみんなが力を貸したくなるタイプの人なんですよね。
「いい人」と呼ばれることは、現代の日本では小馬鹿にされているような風潮があるように感じるのですが、英雄と呼ばれるのが「いい人」でなくてなんだというのか!
ローマへの忠誠心ではなくアーサーを信じるから、と行動を共にする仲間の騎士達のかっこいいこと!
友だと思うゆえに反発する少年のような表情が魅力のランスロット、ガウェインの明るさ、トリスタンと鷹(!)のかっこよさ、ホーンの豪傑&愛妻ぶりも魅力的です。
ヒロイン(当然グウィネヴィア)役のキーラ・ナイトレイは、この時18歳だったそうですが、凛々しく、かつ入れ墨が野性的な戦士ぶりで見せて、なかなかです。
アーサーは、誰よりも自由と平等の信念を信じ体現する、誠実で高潔な人であり(実はローマ人とウォードのハーフなのですが)、それが故に、現実とのギャップに悩みます。
理想となるはずのローマ人の卑劣な行為と、無理をおしつけられる友人や現地の人々の苦しみが、彼を自由のための行動に駆り立ててゆくのです。
ローマ人にとって敵のはずのウォード達、さらに侵略するサクソン人、3つの民族の対立の中で揺れ動くアーサー。
これはブリテン島における、衰退するローマ人×侵攻するサクソン人×抵抗する原住のウォード(ケルト人)の3者が対立するバランスと変化の時代の物語です。
現代のイギリスの主要民族はサクソン人のはず・・・と思うとまた不思議な気がします。
ローマ帝国の衰退とともにローマ人はいなくなり、一時ケルト人が盛り返しても、結果的にはアングロサクソンがブリテンの主要民族となるのですね。
ケルト人はウェールズその他辺境に残って、ゲルマン人の大移動は来なかった。
あと、DVDの特典映像に、別のエンディングが収録されていたのですが、こちらの方が良かったのでは?と思ってしまいました。
本編で採用されたラストの唐突に明るいエンディングは、アーサーが本編唯一の笑顔を見せているのは明るさを感じるし、全体のバランスから言ってもそれで良かったのかも知れません。
しかし個人的には、悲しみの中でも荘厳さと未来の救いを感じさせる、抑え気味のエンディングでも良かったのでは、と思います。
ディレクターズカット版では、レンタル版にはない本編追加映像が16分あるそうな。こちらと小説の方も見てもう少し味わってみたいと思います。
○「ヴァン・ヘルシング」2004年
舞台は中世ヨーロッパ、ゴシックな城、閉鎖的な冬の村、そして夜に活動する吸血鬼・・・とくれば、画面が暗いのはしょうがない。
主人公ヘルシングのダークさ加減もそうだし、一族最後の生き残りであるヒロイン・アナも、笑顔が見られません。
そう、これは暗い映画なのです。ホラーではなく、むしろアクションに分類されるでしょうか。
笑いを誘うのは道化役の僧侶カール君と、伯爵の奥方たちの華麗な変身ぐらいですね。
何より忘れてはならない光ってる役柄は、冒頭と後半から出てくるフランケンシュタイン君でしょう!!
『俺を放せ、このケダモノ野郎!』と叫ぶ彼ほど、まっとうで正義感あふれる好人物はおりません。なんて良い奴なんだ、彼は・・・。
ヘルシングは終盤に人間離れしてからの方がかっこいいですね。
アナのお兄さんは狼男化してからあんなに苦しんでいたのに、もったいなかった。
記憶を失ったヘルシングの危うい魅力と、奥方達の変身の見事さと、光の特殊効果、謎解きとアクションを楽しむ映画です。
無理にロマンス入れなくても良い気がします。
映画の結末は、私の好みじゃないです。あれがああでなければ・・・もう少し良い評価するのに。
D・ウェンハムはしょぼしょぼ系役柄でも良い声だ、というのが私にとっての収穫でした。
全体的にはまあまあ楽しめる映画だと思います。
○映画「英雄 HERO」 2003年8月
何と言っても圧巻なのは映像の美しさ、でしょうか。
文芸作品の監督として知られる、張芸謀監督が作った歴史アクション映画っていったいどんなの?という思いで一杯だったのですが、見て、なるほど…という気がしました。
アクション映画ではなく、かといって文芸映画というほど心情を丁寧に描いた作品でもない。
語られる話が少しずつずれてゆく展開は、心理劇の趣もあります。
ただ、語りでない部分の内容はとても短いので、話が少し物足りない印象も残りました。
次第に姿を変える物語。だんだん明らかになってゆく人の心。
ついに真実の話が語られた時、彼が選ぶのは、そしてその結末は……。
目にうつる美しさをとても大切にした映画だ、という印象があります。
光る雨粒、金色のポプラの林、一面青に染まる湖、そしてただひらすらに広がる砂漠。
アクションで最も美しく見えるよう、ひるがえるシルエット、風になびく様にこだわった衣装は、本当に美しい。衣装は「色」を伝える最も印象的な材料です。
大地の茶、情念の赤、醒めた青、過去の緑、事実の白、そして圧倒的な黒。
衣装の色がどのように大きな役割を果たしているかは映画をご覧下さい。(こればかりは言葉では伝えきれないように思います)
秦を現す黒一色の世界の中で、ワダエミ氏の衣装と監督の色彩感覚が素晴らしい効果をもたらしています。
また、湖(九塞溝だそうです)の水を使ったアクションシーンの映像も美しかった。
ぽちゃん、と剣を刺してその響きと映像を「美」としてアクションシーンに組み込むのは、東洋人の感覚だな、と思いました。西洋人にはこういう映像は絶対作れないんじゃないでしょうか。
個人的には、J・リーのアクションがもう少し見たかったですね〜(笑)
長空(ドニー・イェン)との立ち回りシーンはさすがに迫力がありますが、それ以外ではワイヤーアクションの部分が多かったです。ワイヤーアクションもいいんですが、生身のアクションの迫力は捨てがたい魅力があります。
飛雪(マギー・チャン)と如月(チャン・ツィイー)の女性二人の立ち回りも背景の美しさとあって、大変印象的です。
この二人の立場の違い、色っぽさと無邪気さの対比も上手い。
チャン・ツィイーは、主役じゃないけど本当にこういう役が上手い。むきになってかかってくる、子どもっぽい負けん気の強い一途さを演じればちょっと真似の出来ない役ぶりだと思います。
妹曰く「ずっと泣き顔」の残剣ことトニー・レオンですが、最初情けなく見えていたのが、だんだん立派な人物に見えてきます。だんだん、もしかして彼はすごく立派な人物じゃないか?とまで思わせるのは話の展開の妙かも。
書をとても重要な小道具に使っているのも印象的でした。
砂の上に書く書。精神の在処を導く書。秦王は何を感じるのか…と。
道具としてはとても上手い使い方をしています。
音楽も重厚で良かったです。
グリーンディスティニーでも音楽を担当された譚盾のクラシック曲も素晴らしいし、アクションシーンで使われていた鼓童の太鼓も良かったです。そういえば妙な叫びも入ってたっけ…画面によくあっていました。
私が個人的に少しひっかかった点は、無名(J・リー)の行動の結末に込められた肝心のメッセージがあまり強く感じられなかったことでした。
はっきりいって、私自身、秦の始皇帝を肯定的に捉えたことはあまりありませんでした。
でも、長い戦乱時代を終わらせようとしている、と肯定的に見ていた民も、確かにきっといたのでしょうね。
でも、この作品が平和へのメッセージというのはちょっと唐突な気がします。そのへんをもっと深くつっこんで描いて欲しかった。
秦王の内面をもっと描いてもらわないと、えー本当にそんな事思ってたの?都合のいいように解釈してるだけでは…?なんて少し唐突な気がしたのです。
日本の観客で、秦の始皇帝のことや、趙の国のこと、戦国時代の末期の状況を理解している人がどのくらいいるのだろうか気になってしまいました。
「ああ、もうすぐ趙人の大量虐殺が…」とか「漢字も統一するのよね…」とか思いながら見ていた私としては、これを機に中国の歴史と文化(武侠も〜)に興味を持つ人が1人でも増えてくれるといいな〜と思ったのでした。
手放しで絶賛というわけにはいきませんが、一度は見ておく価値がある映画だと思います。
なんだかんだいっても最後は胸が痛くなりました。
もう一度、細かい所をじっくり見直したいと思います。