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「ただいま」
マイホームの扉を開けると、予想した通り、鉄砲玉のように子供達が飛び出してきた。
「おかえり!」「おかえり、ユィマ!」
しがみつく双子を抱きしめたユィマの心の中にほわりと暖かさが広がった。
「遅くなってごめんね。心配した?」
「し・心配なんかするもんか!」「きっと帰ってくると思ってたもん!」
二人は口々にしゃべり出した。「だって、マナの木が復活したんだろ?教えてよ、あれってユィマがやったの?」
話を聞きたがるバドの服のすそをコロナが引っ張った。
「ちょっと、バドったら。お客様がいるのよ。」
「あ、そうだった。」
「お客?」
「うん。」二人は顔を見合わせた。「待ってて、呼んで来る!」
「ユィマおねえさま!」
とんとんと2階から降りてきたのは、真珠姫と瑠璃だった。
「真珠姫!瑠璃!」
「お久しぶりです。お会いできてうれしい…。」
「ユィマ、久しぶり。聖域に行ってたんだろ?」
「ええ、そうよ。…見た?」
「見たよ!!」「見たわ!!」
二人の珠魅も、幼い双子も一斉に頷いた。
「マナの木が復活したのね!すごいわ、ユィマおねえさま…」
「草人がいっぱい飛んでっただろう?頭に赤い花が咲いてさ。すごい数だったな。」
「あっそうだ!」バドが叫んだ。「ユィマ、サボテンも行っちゃったんだよ。」
「え、サボテンが?」
「そうなの。うれしそうに、草人追っかけて行っちゃったの。」
ユィマは小さくため息をついた。「そうか、それじゃ、仕方ないわね…。あの子だって、皆とつながっているんだものね…。」
寂しげな彼女の表情を見て、瑠璃がぽんと肩を叩いた。
「せっかくなんだ、ゆっくり話を聞かせてくれよ。な?真珠」
「ええ、おねえさま。お話聞かせてくださいな。」
ユィマは、我が家に集う仲間たちの姿を見回した。みんなの笑顔が彼女を見つめている。ユィマは、にっこりと笑って宣言した。
「わかったわ!今日はマナの女神のお祝いよ。パーティーにしましょう!おいしい物食べて、夜までゆっくりお話しましょう!」
楽しい夜は更けて行く。ささやかなパーティーは、旅から戻った主人を気遣って、珠魅と双子達が用意してくれた。小さな我が家にさざめきが満ちて暖かさが広がる。その暖かさに包まれて、ユィマは聖域での出来事を話した。みんな、それぞれの思いを持って彼女の話に相槌を打ち、思うことを述べ合った。
そして、後はいつも通りの歓談になった。珠魅達の近況、バドとコロナの留守番中の出来事など、会話は尽きず、明るい笑顔が灯りの周りにただよう。
「飲み物、取ってくるわね。」
そう言って、ユィマは台所に立った。裏の倉庫に、ロアのマスターからもらった取っておきのワインがあるのを思い出したのだ。
ユィマは裏口の扉を開けて外に出た。外気は冷んやりとして心地よく、清廉で、あたかも今日が特別な日と知っているかのようだった。倉庫から目的の酒瓶を持って戻ってくると、裏口に瑠璃が立っていた。
「あら、どうかした?」
「いや…。」
彼は、むっつりと答えた。ユィマは酒瓶片手に持ったまま、何故か幼く見えるラピスの騎士の表情を伺った。
「瑠璃、何か話があったんじゃないの?」
「俺じゃないんだ。話があるのは。…真珠でもない。」
「レディパールね?」
「ああ。」ラピスラズリの珠魅は静かに答えた。
「俺も一緒に行くと言ったから、真珠の姿になったんだ。そのうち、顔を出すと思う。」
かすかな月明かりの中、静かな言葉にこめられた彼の悔しげな思いが、手に取るように感じられた。この若い騎士が、一族最強にして最年長の騎士に複雑な思いを抱いていることを、彼女は知っている。そして、それは彼が自分で解決するしか無いのだ、ということも。
ユィマは暗がりで微笑み、酒瓶を無理やり彼に手渡した。
「さあ、戻りましょ。真珠姫が心配するわ。」
瑠璃は黙って裏口の扉を開き、明るい灯りに照らされた、さざめく部屋へ戻っていった。
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